+++ 心の奥のなにか +++ 〜知識では見出せぬこたえ

ぱらぱらと紙をめくる音だけが聞こえる。
うるさいなぁと思ったら何のことはない、自分がやっていた。
全く落ちつきのない、何故かここ数日自由にならない身体を机の上に投げ出した。
はずみで手に持っていた本を落としてしまう。
結構貴重な本なんだけどなーと、他人事のように考える。
拾う気すら起きない。ここを預かる者として失格だよなーと、理解してはいるのだが。
明日には……行かなければならない。
もうここに閉じこもる事はできない。
「……何、やってんだか、オレ」
馬鹿なことをしているという自覚はあった。
逃げても何も解決しないことを、誰よりも自分がよく分かっているはずなのに。
明日はあいつが帰ってくる。
ずっとずっと楽しみにしていた、待ち遠しかったその日が来るのが、こんなにも恨めしい。
嬉しさと気まずさがない混ぜになった複雑な表情を浮かべて、ため息をつく。
明日は皆が……それこそ彼に関わった者たちが勢ぞろいする。
彼女はもう着いているだろう。
「ああー……うー……」
逢いたいとおもう。逢いたくないとおもう。
矛盾しているが、どちらも彼の気持ちだった。
――どうしてこんなにもやもやするんだ!?
最も賢き者に答えるものはない。その答えは言葉で説明できるものでなく、自力で悟るしかないのだ。

訴えかけるような、濡れた瞳。きつく握り締めた手。震える肩。
彼女は彼の名を呼んだきり、そうして見つめるだけで何も言おうとしない。
不安げに彼を見上げ、けれど期待に満ちた眼差しでじっと見つめてくる。
つややかな黒い髪……ああ、綺麗な肌してるよな……薄化粧してて、いつもよりずっと……
心の奥で何かがざわめいた。
いつものどきどきとか、ほわっとした感情とは全く違う何か。
もう一度、名を呼ばれる。
彼の心が決めた名前を。
「ポロンさま」

……その後確かサクヤをぎゅーっと抱きしめて……すぐに逃げ出してしまったのだ。
気がついたらここにいて、それからずっと、ぼんやりと本の字面だけを追っていた。
サクヤを傷つけただろう。あやまりに行かないと……そう何度も考えて。
何度も挫折する。
またあのわけのわからない感情に振りまわされそうで、怖い。
「オレは賢王なのになー?」
力のないひとりごと。
額に手を触れてみる。今は閉じられているが、ポロンにはいつもその存在を感じられる。
賢王の証、第三の目。
分かっているのに分からない。心一つ制御出来ない。賢王がなんだ、第三の目など何の役にも立ちはしない。
「重症…………」
呟いて、ポロンは思い腰をあげた。ぐずぐずしてはいたが、行かねばならないし、また行きたい気持ちに変わりはないのだから。
今だもやもやは晴れないが、これはサクヤに会えば消えるだろうことは分かっている。
同時にもっと濃いもやもやを抱えることになるだろうことも。
それは恋愛ごっこが本気の恋に変わった時、きちんと覚悟をしておかなかった報いである。
彼はまだ、そのことに気付いていない。




で、結論であるが。
ポロンの悩みなんぞ仲間は構っちゃいなかった。
誰も彼もが全面的にサクヤの味方をし、ポロンが塔にこもって出てこず連絡がとれないのをいいことに、彼の知らないところで事態を「進めて」しまったのだ。
彼の驚愕は察してあまりある。
そして勇者の戻るその日、彼はそれまでの行動の報いをまともに受けて、その場で人生の選択を迫られるのである。
もちろん、選択肢はひとつしかなかったのだが。


もやもやしてるポロンの心理。
しかし最初はもっとかっこよく書くはずが、ただのへたれに
2004.1  イーヴン