+++ 小ネタ +++

新しいものが上にきます。2005.7.20 再up

>そのよん。


「……お前は俺に何を求めているんだ?」
「君という存在、ただそれだけ」
アステアは甘えるようにアランに寄り添い、ため息のように儚くこたえる。
いつもは剣やペンを扱う指先をそっと伸ばして、彼の濡れた髪を優しく梳く。
二人にはあまり縁のない香りが周囲に揺らめいた。
「俺に何が出来る? 何をさせたい?」
「君にしかできないことを」
アステアはアランを見上げ、その面に向日葵のような笑顔が浮かべた。
アランは不思議と達観した眼差しで、その笑顔を見つめている。
「何故俺でなければならない?」
「君は一人しかいないもの」
そうでしょう?
首を傾げるアステアに、愛おしさを感じつつも、アランはそれを封じるように眉を寄せた。
封じなければ―――保たないから。内に燃え盛る、この炎が。
未だ彼の髪に触れているアステアの手をどけて、ぎゅっと握りしめる。
やや、ぬるりとした感触。シーツを汚した原因はこれだ。
「それでお前は何をしたかったんだ?」
この問いかけは無意味なのだ。アランはそのことをよく分かっていたが、それでも聞いておかなければならなかった。
「だって、どうしてもオールバックのアランが見てみたくて
「人で遊ぶんじゃねえー!」
ついに爆発した(珍しく髪の毛は寝ている)アランは、思いきりアステアの頬を抓ってのばした。

当初「似合わない」って言わせるつもりだったんですが、割と似合うかもしれない。  2004.7.13

そのさん。


満面の笑顔でアステアは言った。
「というわけで式の日取りが決まった。約半年後だ。お互い大変だけど頑張ろう!」
「ちょっと待てぇ!」
「ん、何?」
「式って何だ式って」
何となく想像はついていたが、今聞いておかねば大変なことになる気がする。
果たしてアランの予感は正しかった。
「何ってもちろん、僕らの結婚式だよ」
明日は会議があるから、とでも言うような感じでその言葉は発された。
「けっ……」「婚式」
「……聞いてないぞ」
「言ってないもん。言ったら逃げるでしょう、アラン。俺が表に出るわけにはいかないとかなんとか」
図星だった。
「降りるなんて聞かないし聞けないよ。もう各国に使者は出したから、国としての威儀をかけて、立派な式にしなければならない。律儀な君のことだもの、逃げて全部台無しになんてしないよね? まさか君の子を産むこの僕を裏切るような真似はしないよね?」
アランの顔が驚愕に引きつった。
「っ! アステア……妊娠してるのか!?」
「いやしてないけど」
「紛らわしい言い方をするな」
「やることヤッてるんだから別にありえるだろう?」
「強調するな」
「もう、何が不満なんだ?」
不満どころの話じゃねえ! と感情のままに叫んでしまいそうになるのを押しとどめ、アランは深呼吸してアステアと向かい合う。
「……何故、言わなかった?」
「言ったら逃げただろう?」
「そういうことじゃなくてだ。それなら俺を説得すればいいだけの話だろう。結局お前は俺を信用していないのか? ……俺はお前の何なんだ?」
青い瞳が互いの色を映して見つめ合う。
アランにとっては永遠にも等しい時間――ほんの数秒のち、アステアは可愛らしく首を傾げ、
「居候の恋人……っていうか、ヒモ?
アランは塩の柱になった。


アステアに「アランはヒモ」と言わせてみたかったんです。  2004.5.9

そのに。


報復のチャンスだった。
アランの無防備な寝顔!
前回のいたずらの後、アステアが目を覚ますとすでに姿を消している事が多くなった。
……というよりその直後のつっこみにアランは恐れをなしたらしい。
かくいうアステア自身も全身から火を噴いたかと思ったのだが。
「……せっかくの報復のチャンス、逃さない」
やはり女の方が図太いようである。
とりあえず基本として頬をつまんで延ばしてみる。思ったよりかたくてのびない。
「男性だから顔の筋肉も固いのかな……」
次に前回自分がやられた口のばし。追加で下瞼も引っ張ってみる。多分これで目を醒ますだろうと思いながら。
「うにーっ、と」
「ほひ」
「おはよう。今何か言った?」
「はひはっへんは、ほあへ」
ちょっと怖い顔、と低い声で凄んでみせるのだが、出てくる音がああなので、微笑ましくて思わずアステアの口もとが緩む。
「意味のある言葉をしゃべってもらわないと分からなひおっ!?」
アランが(アステアに口を横にのばされたまま)にやりと笑う。
彼の片手が、アステアの腰をくすぐっていた。
「卑怯な」
「ほえは、ほっひのへいふわ!」
シリアスに睨み合う二人の横を、眠そうな顔の女官が呆れたように通りすぎていった。

2004.2.29

そのいち。


目が醒めたら、アランの顔が横にあった。
寝てたら可愛い顔してるなぁ、と毎度のように考えるのだが、その寝顔をしばらく鑑賞する。
自分を腕枕するでもなく、抱きしめたりするでもなく、ただ気持ちよさげに眠っている。
何となく腹が立った。
額をぺちんと叩いてみる。――かなりいい音がした。
それでも起きないのでもう一度。
ぺちぺち。ぺちぺち。ぺちん。
「……楽しい」
「ほぉ〜そうか。楽しいか」
アランの目が半眼に開かれていた。非常に目つきが悪い。
寝起き以前の問題かなぁとアステアは思ったが、とりあえず朝の挨拶をした。
「あ、アランおはよう」
「ひとのデコで遊んでおきながら何しれっと挨拶してやがる」
「君が、僕が起きる前に出て行かないで、未だにここで寝てるからだろう」
「疲れてる時くらい寝させろ」
「自業自得だろ」
アランの手がすっとのびて、アステアの口を左右に引っ張った。
「生意気なことを言うのはこの口かこの口か」
「はひほふふ〜!! はかへほはあん〜!!」
「何を言ってるのか分からんな」
「とりあえずいちゃつくのが一段落したら、食事にしてくださいね」
ベッドに転がったままいちゃついていた夫婦の横を、筆頭女官がシーツを抱えて通りすぎていった。


そのいちそのに補足。オリキャラ『ソフィー』アステア付きの筆頭女官。色んな秘密あり。  2004.2.29