+++Affection+++

ディアッカ・エルスマンという人間を言葉で説明せよと言われたら、まず何を思い浮かべるか?
彼を知る多くの人はその容姿を挙げるだろう。
コーディネイターが生まれてくる背景上、姿形の整った者ばかりである中でも、彼は非常に特異な色彩をその身に纏っている。
滑らかな褐色の肌と蜂蜜色の髪、スミレ色の瞳……。
他にあまり例を見ないその外見は、どこでも必ず人目を引いた。
彼がよくイザーク・ジュールとつるんでいたせいもある。
イザークは彼と対照的な銀の髪と白い肌の“美少年”であったから、二人並んでいるととてつもなく目立っていた。
もちろん―――ただ容姿が良くて色彩が珍しいだけで、いつまでも注目を集められるものではない。
イザークは元々優秀な上、外見に似合わぬ他を圧する覇気があった。
ディアッカの場合は10代とは思えない不思議な色気……と、言いたいところだが。
彼は人の心の機微に非常に敏感で、周囲とのバランスを取るのに長けていた。
恐らくそれ故なのだ。
私がディアッカと付き合い始めたのも。―――別れることになったのも。

付き合い始めたきっかけは、やはり容姿に惹かれたからなのだけど。
ディアッカは優しくて、時に意地悪で、センスが良くて、気が利いて、どんな時でも上手に楽しませてくれて、距離を置いてほしい時はちゃんと察してくれて……理想的過ぎる恋人だったように思う。
付き合っていてとても気が楽だった。
こちらが何をしなくても、向こうが全部察してくれるから。
私は当然のように彼に惹かれていったけれども……ディアッカのことが好きだと自覚したその時に、気づいてしまった。
彼の行動に、私に対する愛情は一片も含まれていない事に。
ディアッカは私を楽しませてくれる。心地よい空気を作ってくれる。
付き合っているのだから嫌われているわけではないのだろう。
けれど彼の行動は私を想ってのことでなく、恋愛とはこういうものだという幻想の上に構築したプログラムに過ぎなかった。
悲しいことに―――私が彼を好きだと自覚しなければ知る事はなかっただろう。
想い故に彼を見ていたくて、じっと観察していなければ―――
「私のこと、好き?」
「好きだぜ?」
「でも愛してないわよね」
直球の質問に、ディアッカは驚いたように目を見開いた。
探るように動いた目が、彼の本心を物語っているような気がした。
「それは―――――お互いさまって奴じゃねーの?」
皮肉っぽい笑みが私の胸を突き刺す。こんな笑顔でさえどきどきする。
でもどんなに苦しくとも――――――私は頭を振って答えた。
「そうね、そうかもしれない。でも、私はあなたを本気で好きになりはじめてた。だから……」
絶対に私の方へ振り向いてはくれない事も分かってしまった。
ディアッカは優秀で、人の心を読むのに長けていて、故に他人に心を開かない。
ひねくれているから、本心は常に行動の斜め後ろ、やや上、あたりにあったりするのだろう。
誰が捕まえるのだ、こんな……この年齢でこれだけ複雑な男を。
彼の価値観を全てひっくり返せるくらいの凄い女性でなければ、無理なんじゃないか、と思った。
そして悔しい、と思った。それが出来るのは私ではないから。
「あなたに人が愛せるの?」
悔し紛れの問いかけに、ディアッカは曖昧な笑みを浮かべた。
その顔から視線を外すこと無く、私はじっと待った。
逃げられないと悟ったのか、ディアッカの顔つきが真面目なものになる。
ぼそりと呟いた言葉は。
「……運命の人に出会えたなら」
ディアッカらしくない夢見がちな答えに、私は目を丸くした。
照れていたのか、不機嫌そうにこちらを見るディアッカがちゃんと年相応に見えて、妙に可愛かったのを覚えている。
そして、私達の関係はその日に終わった。


「……?」
聞き覚えのある声がした気がして、私は振り返って辺りを見まわした。
随分前に聞いたきり、もう何年も耳にしていなかったあの艶のある声に似ている。
やはり気のせいだったのだろうか?
それでも何となく視線をさ迷わせて―――そこに、見つけた。
同時にアレは誰だと目をこすって、あらためてまじまじと見つめてしまった。
あの華やかな外見は変わっていない。幾らか年をとった分、やはりと言うか何と言うか、色気は増したみたいだけれども。
意思の強そうな上がった眉も、優しげに垂れた目も、皮肉っぽい笑顔も、変わっていない筈なのに。
垂れた目尻をもっと下げて、幸せそうに微笑んでいるあの男は。
穏やかな愛情を込めた目で隣に寄り添う女性を見つめているのは。
「……出会えたんだ」
あの顔を見ただけで納得できた。私にはできない……ディアッカにあんな顔をさせることは。
ディアッカの無防備過ぎる笑顔は初めて見るもので、過去の彼には決してありえなかった。
それが分かるくらいには彼と親しかったから……少しだけ、彼の運命の人に嫉妬した。
周囲の人が思わず微笑んでしまうような、幸せな恋人達。
ディアッカの運命の人は、茶色の髪に青い目のどこにでもいそうな普通の女性だったけれど、内面から光り輝くような笑顔を見せている。
そして、ディアッカも。
ああ、本当に想いあってるんだなと、私の中にあった僅かな未練が事実を受け入れる。
彼女の手を離しちゃ駄目よと忠告すれば、きっと彼は笑って言うだろう。
「この俺がそんなヘマするワケないだろ?」
表情も、声の抑揚やトーンすらも想像出来てしまい、可笑しくて笑ってしまいそうだ。
ディアッカは彼女を愛しつづけるだろう。
激しく、そして穏やかな愛情を持って。
寄り添い合う二人の姿を、もう一度視界におさめる。
素直に祝福したくなるような、幸せな恋人達。
でもしゃくだから、絶対に二人の幸せを祈ってなんかやらない。
それくらいは、振られた女の権利ってものだ。


祝サイト初ディアミリ創作…………?
何で私はこんな変則的なディアミリ書いてるんでしょうねー?
ま、とにかくディアッカ誕生日おめでとうv
2005.3.29 イーヴン