+++Dearka+++

白く柔らかい手にそっと触れて、恐る恐る握り込む。
ほんの少し触れ合った肩が強張るのが分かったが、彼女は抵抗しない。
どころか僅かに握り返されてきて、ディアッカは喜びに天に舞い上がりそうな心地だった。
勇気を得てその手をぎゅっと握りしめる。そうっと、痛くないように。
何かが胸からこみ上げてきて、ディアッカは大きく息を吐いた。
百戦錬磨とか言われてた俺はどこへ、とふと思う。イザークに腰抜けェと言われても仕方ないくらいに、彼女にはいつもの自分が出ない。もうめためたに弱い。
元々は彼女に対する負い目からだったが、今はそんな理由ではなく、気がつけば彼女に骨抜きにされていた。
そこに理屈なんてない。
彼女と話していると、こころの奥底に違和感を覚える。小さな疼きが広がっていく。
畏れを覚えながらも自身の中にある未知の領域に踏み込んだ時、ディアッカは初めて恋を知った。
(手を握るだけでこんなにどきどきするなんて、一体どこのオコサマだ、俺は)
けれど幸せなのだ。こんなに心が満たされることは、これまでに一度もなかった。
最初に抱いたのは敬意だった。
ナチュラルはバカでノロマ、コーディネイターを羨むだけの能無しの集まり。
ザフトにいたころはそんな風にすら思っていたのに。
彼女の行動がディアッカの偏った意識の全てを覆した。
―――コーディネイターで、ミリアリアと同じことが出来る人間がどれだけいる?
少なくとも昔のままの俺だったら、同じ立場に立たされたとして、あんな行動が出来るとは思えない。
ミリアリアはどうしてこんなに強く在れるのだろう?
「強くなんかないわ。アンタを殺そうとした私が」
「そんなことない」
そう思うのはアンタの勝手だけど。ミリアリアは少し悲しげに笑う。
「そう見えるのならきっと、トールのおかげね」
トールのおかげで、私はアンタを殺さずに済んだんだもの。
その時ディアッカの心に渦巻いたものを、彼は自分自身で説明しきれない。
慕情、悲哀、羨望、嫉妬、渇望。それからただミリアリアを抱きしめたい衝動。
あえて説明するならばその全てが交じり合った強い感情だった。
(俺は……ミリアリアにあんな悲しい笑顔をさせたくない)
ミリアリアが好きだ、と自覚した瞬間だった。
泣いていた彼女。憎しみから彼を殺そうとした彼女、同時に彼を救った彼女。ひとりで謝罪にやってきた彼女。つっけんどんな彼女、笑った顔の彼女……。
いまとなってはそのどれもが彼の心を捕らえて離さない。
乾ききっていた精神が、ミリアリアという癒しの雫で満たされる。
悲しい顔はさせたくないけれど、もっともっといろんな表情を引き出したい。俺が。
俯いたままのミリアリアの横顔をそっと伺う。
ほんのりと赤く染まった頬と耳がディアッカを煽る。思わずごくりと唾を飲んで、ディアッカは視線をそらし自制する。
昔ならば、キスして押し倒して終わり。愛の言葉は刹那の睦言に消えゆくばかり。
ミリアリアにそんなことは出来ない。したら速攻嫌われる。
それは確かに気持ちの延長線上にあるし、下心も有り余るほどに持っているけれど。
どうか拒絶しないでと願いを込めて。
握った手を持ち上げて、ピンク色の爪に口付ける。
速くなる鼓動とは別に、上目遣いにこちらを見るミリアリアにどうしようもなく刺激されながら。
これが最初の第一歩。

「ミリアリアが、好きだ」

甘ーーッ!というのを目指しました。
手を握ってどきどきvというのがやりたかったのです。青い青い。
2005.6.10 イーヴン