DM性別逆転SS 10

あたしが参戦した、オーブ軍と連合軍との最初の戦闘の後。
格納庫でのキラとアスランの会話を、ミリアリアはコンテナの陰に隠れて聞いていた。
彼の傷はまだ癒えていない。ようやく傷口に膜が張り始めた頃なのに、改めて親友の死を受け入れねばならないというのは、どれほど辛いことだろうか。
コンテナを掴むミリアリアの手は小刻みに震えている。
激情を押し殺して二人の会話を一字一句聞き漏らすまいとしている彼の姿は、少しの衝撃でばきんと折れてしまいそうで、あたしは彼の背中を見つめているだけで精一杯で、どうしても彼の傍に寄ることが出来なかった。
ぐっと唇を噛み締め、顔を見られないように俯いて、ミリアリアはあたしの横を走り抜けて行った。
追いかけて慰めてあげたかった。けれどあたしはそうしなかった。
何故って、あたしが近くにいたら、ミリアリアはきっと泣かないと思うからだ。
泣けないんじゃなくて、意思の力で絶対に涙を見せようとしないだろう。
ミリアリアにはそういうところがあると思う。女の前では泣かない、みたいな、ちょっと古風で男前なところ。
捕虜として連れてこられた時に彼の泣き顔は一度見ているけど、今とあの時とでは状況が違う。
本人は否定するかもしれないが、少なくともあたしにとって一番親しい人間はミリアリアだ。
そんな相手に、しかも異性に泣き顔を見られることを、彼は決して望まないだろう。
だからあたしは追わなかった。
悲しい時に泣けないのはとても辛い。それは男も女も関係ない筈だ。
ミリアリアは今のうちに泣かなければならない。初めて会った時のように、悲しみで抜け殻みたいになって泣くのではなくて、全てを受け入れるために。
駆け出しそうになる足を無理やり止めて、彼の去っていく背中に向けた視線を引き剥がして、あたしはアスランの方に足を向けた。

二度目の戦闘の後は、ミリアリアと顔を合わせる余裕がなかった。
MSパイロットとCIC担当では出撃時以外に接点はないし、何よりこの状況では互いに忙しすぎて話す間もないだろう。
そういえばあの場にミリアリアはいなかった。
立場的に入れなかったんだと思う。あたしやアスランの場合はかなり特殊だ、元敵兵なわけだから。
ナチュラルとコーディネイター、地球とプラント、両陣営の心あるものに理念を託す。
ウズミ・ナラ・アスハの下した決断を、彼はどんな思いで聞くのだろう。
守りたかったものは喪われる。トールのことで泣いた後聞かされるには辛い話だ。
宇宙に上がる直前、モニタ越しに見たミリアリアの目は普通に見えたけど……本当は、どうだったのか。
それは、あたしには分からない。


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男の子は女の子に泣いてるところを見られたくないと思うのです。
……あ、キラは別な。
2005.9.6 イーヴン