DM性別逆転SS 2

ナチュラルにいい男はいない。断言してもいい。
通路や艦内のつくりを確認しつつ、ついでにその辺の部屋や角から覗く兵士の顔をそれとなく確認して思った。
物珍しそうにこちらを見つめる視線が煩わしくて気持ちが悪い。
黄金と褐色と紫なんてどうせ珍しい色合いなのは分かっているし、捕虜になることを選んだのは自分だけど……じろじろ見られるのは腹が立つ。
あたしみたいな極上の女、そこらにはいないわよ。料金払えっての。
腹の中で舌を出していると、後ろから銃で小突かれた。
……やっぱり女の扱いがなってない! ナチュラルって本当に野蛮。
「ったいわねぇ、そう突付かないでよ。女はもっと大事にするもんよ!」
返ってきた反応は、背中に押し付けられた銃口だった。あっそ……。
まさか撃ったりはしないだろうけど、きっちり捕虜として扱うってことね。
意味もなく逆らっても状況が変わるわけじゃない。おとなしく正面を向いて歩き出す。
腕力に訴えないところは素直に感心しておくけど……正直連合軍兵士の規律なんて信用できない。
ナチュラルに囲まれてるってだけでも嫌な状況なのに、見る限りホントに男ばっかりだし。
何よりあたしはこいつらにとって殺しても殺し足りないくらい憎い敵のはず。
バカな考えを起こす奴が出たって不思議じゃない。結局のところあたしは女なんだから。
だから常に気を張りつめなければ。
ここは敵艦の中で、あたしは捕虜で、周囲には敵しかいない。バスターも奪われている。
今のところ逃亡する意思はないけど、いつチャンスが訪れるか分からないなら出来る事はしておくべきだ。でなければ捕虜になってでも生き延びた意味がない。
あたしはさっき以上に神経を使って艦の構造を観察し始めた。
この『足つき』、過去にアカデミーで学んだ連合軍のどの艦とも違う形状をしている。内部構造も違っているはずだから、ちゃんと頭に叩き込まないと。
―――そうして改めて顔を上げた視界の端に、あたしはその二人を捉えた。
「……あら?」
意外だった。ナチュラルの軍人は殆ど20歳以上と聞いていたから、青い色の軍服を着た、どう見てもティーンエイジャーの少年二人は目を引いた。
うすい色の髪の知的メガネ君と……何かその後ろでめそめそ泣いてる、栗色の髪の女々しい男。
―――ダメだ、こーいう男を見るとムカつく! 軍人のクセに、何泣いてんだか。
「へーエ、こんな若いコもいるんだ」
めそめそ男がびくっと体を震わせて、メガネ君の背後に隠れた。
―――ホントに女の子みたい。人の後ろに隠れて、泣いて。
「バッカじゃないの? 泣きたいのはこっちの方よ」
軽蔑をこめて言い捨てた途端、また後ろから小突かれた。余計な口を利くなってコト。
こちらを睨みつけていたメガネ君が、突然手を振り上げた。おとなしそうな顔して、捕虜を殴ろうっての?
けれど拳が達するより先に、メガネ君は他の兵士に止められていた。
―――残念でした。まぁ、どうせ避けたと思うけど?
背後の兵士に背中を大きく押されてつんのめり、あたしは仕方なく歩き出した。
めそめそ男の顔をもう一度視界に収める。
涙を湛えたままの大きな目がじっとこちらを凝視している。一瞬だけ、視線が絡む。
……ずっと泣き続けてればいいわ、弱い男なんて。


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2005.7.28 イーヴン
2005.8.2 up