DM性別逆転SS 4

ごめんなさい、と。
謝罪の言葉はするりとあたしの口からこぼれ出た。
こんな風に心から謝罪するのは、ほんの子供の頃以来かもしれない。あたしは自分がプライド高くて滅多なことでは謝らない人間だという自覚はある。
内と外を隔てる鉄格子の向こうで栗色の髪の少年が口を真一文字に引き結んでいる。
きつい目でじっとこちらを睨んでいる。ああやっぱり許してはもらえない。
それは当然なのかもしれない。あたしは人として赦されざる罪を犯している。
だからどんなに罵倒されても甘んじて受けるつもりだったのに、彼の口から出た言葉ときたら。
「……謝るのは僕の方だろ」
「え?」
「ナイフ向けたりして……怪我させて、悪かった。ゴメン」
「は?」
俯き気味の視線が少し上向いて、気遣わしそうにあたしの額に巻かれた包帯をちらりと見やり、すぐに視線を逸らす。
待て。ちょーっと待て。何だって? 今何て言われました?
聞き間違いでなければ……顎が落ちるかと思ったんですけど。
悪かったって。ゴメンって。だからそれはあたしのセリフでしょ!?
罪悪感からなのだとしたら、何てバカなんだこの男。
「何でアンタが謝るの。悪いのはあたしでしょ!?」
「違う。僕だ」
「馬鹿にしないでよ! あたしがアンタを怒らせるようなこと言ったから!」
「馬鹿になんてしてない。僕が反応しなければそこで終わってた。……君のトールに対する侮辱は許せないけど、ナイフで襲ったのはやっぱり……僕が悪い」
「だからそもそもの原因があたしなんだから、あたしが悪いって言ってんでしょー!」
「悪くないって言ってるだろ! 刃物持ち出して怪我させたんだから僕が謝るのは当然だろ!」
真っ正面から睨み合って―――彼ははっと焦った表情をしてあたしから目を逸らした。
ああ残念。綺麗な海色の瞳なのに。何故か一瞬余計な思考が頭をよぎる。
やっぱりこの男、バカなんだわ。捕虜にわざわざ謝りに来るなんて。
本当は軍人じゃないってことを抜きにしても、底抜けのお人良しっぷりだ。
あたしは嬉しいんだろうか、笑いたいんだろうか、目の奥がなんだか熱い。急に涙腺が緩むようなことは何もないはずなのに。
沈黙に耐えかねたのか踵を返して去ろうとする足音に、あたしは小さく呟いた。
「……敵のコーディネイターなんかに、謝る必要ないじゃない」
かつん、と、足音が止まる。振り向いてはくれないのだろうか、ああまた変なことを考えてる。
「ナチュラルとか、コーディネイターとか、そんな括りは無意味だよ」
「どうしてよ。ナチュラルとコーディネイター……あたし達は戦争してるのに」
「……君はもう分かってる」
青い目はこちらを見ない。静かな声だけが冷えた空気を震わせてあたしの元に辿りつく。
「でなければ僕の謝罪に対して、あんな風に反発はしない」


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2005.7.28 イーヴン
2005.8.2 up