DM性別逆転SS 5

次にあたしがミリアリアと顔を合わせたのは、多分1ヶ月近く経った後だったと思う。
時間の経過から考えてとっくにアラスカに着いている筈なのに、あたしは移送されずにずっと拘禁室に留め置かれていた。
移送されるのはいつなのかと食事を運んでくる兵士に聞いても要領を得ない。
状況が分からずにイライラしてたら、いきなり艦が動き出し、明らかな戦闘の揺れが数時間続いて―――
それから多分一週間くらいは経っている。
艦の修復なんかで手一杯なのか、食事が運ばれる回数が一日一回になっていた。
余程酷い被害を受けたのか、こっちに気を回す余裕がないんだろうって想像はつくけど。
どうせあたしは逃げらんないし動けないんだから、簡単な説明くらいしてくれたっていいんじゃないの?
だからエア音がした時、鉄格子の前に立つ相手に思いっきり悪態をついてやるつもりだったのに。
「……食事」
その声が聞こえた途端、あたしは跳ね起きていた。
「遅れてごめん」
彼はぶっきらぼうに言ってトレイを差し出したけど、あたしは空腹感なんて忘れてミリアリアの顔に見入ってしまった。
まさか彼がまたここに来るなんて、思ってもみなかったから。

それから時々ミリアリアが食事を持ってきてくれるようになった。
ナチュラルとは言え同世代と話をするのは結構楽しい。
彼はいつも無愛想で必要最低限の答えしかくれないけれど、少なくとも話しかければ答えてくれる。
それを嬉しいなーとか思うあたり、やっぱり一ヶ月の独房生活はあたしの精神を圧迫してたんだろう。
ミリアリアが来るたびに、本人には気づかれないようそっと観察した。
彼はあたしを見る時ちょっと視線を外す。この理由は二つあると推測してる。
罪悪感が抜け切れてないのがひとつ。
二つめはあたしが女だからだ。
あたしは自分がコーディネイターの中でもかなり美しい部類にはいることを自覚している。真面目で初そうな男は、よくこんな反応をした。
面白がって彼を下から見上げながら、服の襟元をつまんでぱたぱたと扇いでみたことがある。
果たしてミリアリアは真っ赤になって顔を背けてくれて、あたしは秘かに満足した。
―――なんか、可愛いかもしんない。
「ミリアリアって、女の子とつきあったこと、ある?」
「はあ!?」
「どーなの? あるの、ないの?」
「……ノーコメント」
ないんだ。
真面目でしっかりしてて顔も悪くない、結構もてそうなのに。ナチュラルの女って見る目ナイ。
「あたしとつきあってみる気、ない?」
冗談でそう言ってみると、さすがにミリアリアは呆れた顔をした。
「捕虜が何言ってるんだよ」
「あら、だってこれデートでしょ?」
「違うっ!」
あはははーと遠慮なく笑うあたしと、からかわれたと知って顔を赤くしているミリアリア。
とても和やかな光景だと思う。
―――あたし達の間にこのつめたい鉄格子がなかったら。
ミリアリアは元民間人とはいえ敵の兵士で、あたしは捕虜のザフト兵。
本来ならあたしはもっと早い段階でここからいなくなっていて、こんな風にミリアリアと話すこともなかった。
この艦……アークエンジェルが今どういう状況にあるのか、誰も教えてはくれない。
オーブにいることだけは聞いた。けれどアラスカにいた艦が、戦闘後まっすぐオーブに向かうなんて普通考えられない。
何かが起こったことは事実。それもこの艦にとって、天地がひっくり返るくらいとんでもないことだったんじゃないかと思う。それくらい、ここに食事を運んでくる兵士の顔色を見ていれば分かる。
そんな状態の艦の中、あたしの処遇は宙に浮いたままだ。
でもきっと、近い内に答えが出る。そんな予感がする。これについては本当にただの勘だけど。
―――タイムリミットが近い。
あたしとミリアリアがこうして話していられるのも、きっと、もう。


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2005.7.28 イーヴン
2005.8.2 up