DM性別逆転SS 6

オーブは僕の国だからと、彼はきっぱりと言い放った。
可愛いとは思っていたけど、凛々しいと思ったのは初めてで、あたしはミリアリアの強い意志に震え、その横顔にみとれてしまっていた。
彼の言葉はあたしの言葉でもある。
あたしは、あたし達は何を思ってZAFTに入隊したの? プラントを守るためでしょ?
―――同じじゃない。
多分あたしはもうナチュラルを馬鹿になんてできない。
あたしはアカデミーに入学して戦闘の基礎をきっちり学んだけど、ミリアリアはそうじゃない。
戦闘に関してはずぶの素人のくせに、それでも自国を守ろうとこの艦に残るなんて。
怖いでしょ? 逃げたいでしょ? 泣き喚きたいでしょ? 普通なら。
何で、そんなことができるのよ。
掴んだ腕をやんわりと外されるのが寂しかった。
「そんなの死にに行くようなものよ」と、あたしはミリアリアをじっと見つめた。
ミリアリアはちょっと意外そうな顔をして―――あたし自身、自覚はなかったんだけど、どうもかなり心配そうな顔をしてたらしい……―――微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。でも、ザフトの君には関係ないだろ?」
あたしはぐっと息を詰まらせる。関係ある!と叫ぶのは簡単だけど、何でって聞き返されたら説明できない。この胸の奥でじりじりと燻る焦燥感が何なのか。
「身ひとつで放り出しておいてなんだけど……気をつけて帰れよ」
……そんな学校帰りの女の子をひとりで帰す時みたいな台詞で、あたし達の道は分かたれるの?
離れていくミリアリアの背中を睨むように見据えながら、あたしは服の襟元をぎゅっと握りしめる。
何考えてるの、あたし。ここはもうすぐ戦場になる。すぐにカーペンタリア基地に連絡をとって、ZAFTに戻るのが一番正しい。今更何を躊躇うの。
バスターもなければ身を守る武器すらもない。あたしがここにいたって何の意味もない。
なのにあたしは何から離れがたいんだろう……。
ミリアリアの背中はもうとっくに見えなくなっていて、あたしは踵を返して教えられた出口へ向かう。
一歩外に出た瞬間に潮風が吹きつけてきて、あたしの自慢の金髪を弄っていった。
しばらく歩いて高台に出ると、最高級の宝石のような深い色合いの美しい海が見えた。
誰かの目の色と同じ。
しばらくぼんやりと見入っていると、機械の作動音やエンジン始動時の音らしきものがうるさく反響し始めて……オーブの軍艦に混じって、ひときわ目立つ白い艦が姿を現した。
陽に照らされた白亜の巨体を見て、あたしは美しいと思った。
―――あの中にミリアリアがいる。
別れ際に見せてくれた微笑が不意に浮かび上がり、頭から離れなくなる。
「……死なないでよ」
途端にすぅっと心が軽くなる。
本当に無意識に口をついて出たこの言葉で、あたしはやっと自分の本心を悟った。

―――死なないで。
あたしはミリアリアに死んでほしくない……!


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2005.7.28 イーヴン
2005.8.2 up