DM性別逆転SS 9

時間は停滞することを知らず、ただ無言で過ぎていく。
連合軍との二度目の戦闘は、再びあの三機のモビルスーツが戻っていった事で一時的に止まった。
またしばらくしたら再開されるのは目に見えていたから、あたしはバスターの整備に余念が無かった。
なのに何故かアスラン……とキラが呼びにきて、この忙しい時にと思いながら向かった先にいたのは、驚いたことにあの『オーブの獅子』ウズミ・ナラ・アスハだった。
彼はあたし達に離脱を提案し、そしてこの国を放棄すると告げた。
南洋の宝石と称えられた国、靡かずおもねらず、唯一つの理念を貫き通してきたオーブが、滅ぶ。
ふとまぶたの裏に浮かんだのは、三ヶ月前に『ザラ隊』としてオーブに潜入した時のこと。
あの時は、この国の住人が戦争を知らずのんびり平和に暮らしているのを見て、ひどく癇に障ったのを覚えている。
コーディネイターを受け入れる国といえ、現実を見ない馬鹿な奴らだと蔑んでいた。
でも景色はいいわねと言ったら、イザークが不機嫌そうに鼻を鳴らし、二コルがそうですねと穏やかに笑っていた。
―――心のどこかがぎしぎしと嫌な音をたてて軋んでいる。
もう蔑むつもりなんて無い。侮ることも無い。
オーブは争いばかりの世界で中立を保ち、殆ど唯一平和を守ってきた国だ。
それがどれほど大変なことなのか……大変の一言で終わるようなものじゃないと思うけど、政治に疎いあたしにでも分かる。
壊すよりも、作って維持していくことの方が遥かに難しい、それは何であれ同じ。
それが―――今日を限りに失われる。
ミリアリアの、生まれた国が。
再びぎしりと心が軋む。
本当は納得なんてしたくない。こういう時は回転の速すぎる自分の頭が呪わしくなる。
理念だけを残して国を捨てるなんて馬鹿げてると思う。
逆に国を生かして理念を捨てたら、今までしてきたことが全て無意味になってしまう。
そしてどちらをも生かそうとすれば、間違いなく連合に押しつぶされて全て滅びる。
だからウズミ・ナラ・アスハや他の首長達の決断は間違ってないんだろう。
このままいけば、ナチュラルとコーディネイターが永遠に争い続ける世界になる。
そうならないために、共存するというオーブの理念は継いでいかなければならない。
平和の国が、失われても。
「小さくとも強い灯は消えない」
ラミアス艦長はそう言った。
消えない―――それは消さないよう不断の努力をしなければならないってこと。
今までのツケが回ってきたって気がする。
ザフトにいた頃、あたしはザフトの、プラントのためとの題目を唱えながら、その実何も考えずにただ数を競って敵を落としていた。
自分が何を背負って戦っているのか、それすらどうでもいいことだった。
でも今あたしが選んだ第三の道は、失ってはならない理念を背負いながら戦うこと。
ミリアリアが守ろうとしたオーブの、形無き宝を―――
「……重いわね」
「? ディアッカ?」
「何でもないわよ」
振り向いたアスランに答えつつ、仮設ドックに向かう足は止めない。
もうあたしは選んだんだから……どんなに重くても、辛くても、ミリアリアと共に行くって。


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2005.9.4 イーヴン