+++ ロト紋命題 06〜10 +++

† 10. 喪失 †


魂はルビスの腕に抱かれて眠りにつくのだという。
そして再び目覚めた時に、生まれ変わるのだと。
彼の魂は、この瓦礫の城を抜けて、ルビスの元へ行ってしまった。
色素の抜けた髪は銀の光を弾いてとても美しかっただろうに、血で汚れて見る影もない。
もともと白かった肌は更に血の気を失い、蝋の様だ。
彼の母は最初嗚咽を堪えていた。もはや開かれることのない目に触れ、頬をさすり、頭を抱え込むようにして抱きしめた。
僕らは呆然と親子の影を見つめている。
やがて彼女の肩が震え、唇から微かな声をこぼした。
悲しみは堰き止められることなく決壊し、慟哭となってホールを侵してゆく。
母の顎から滴った涙が彼の目蓋に落ちて、その目尻から零れ落ちていった。
彼の閉じられた目に邪悪の影はない。孤独の影もない。
ただ穏やかで優しい―――死に顔。
……結局君とは、仲良くなれなかった。そうなれるはず、だったのに。
兄様が死んだ時、身も心も引き裂かれるような気がした。
地下の同志達が死んだ時も、やはり心が痛かった。
でもどうしてなんだろう……。
君の死を知って思ったことはたったひとつ。

―――世界が壊れてしまった―――



子どもの名を呼ぶ。
私の子どもの、神に祝福された名を。
向日葵のような笑顔で駆けてくる子どもの身体を受け止めて、優しく頭を撫でてやる。
幸せだ。幸せ……な、はずだ。
ロトの勇者たる彼は、少しばかり抜けたところもあるが、優しくて、何より子どもを愛していて、夫として申し分ない。
でも。
ふと思うのだ。
生ある間、真の名を呼ばれることのなかった彼の事を。
彼が死んだことで、きっと何かが喪われた。
埋めようのない空虚な穴が私の中にある。
それはきっと、彼のいるべき場所なのだ。
「僕」らは三人でなければならなかったのに。

「ははうえ?」
青い目が心配そうに私を見上げてくる。
「なんでもないの」
願わくばこの子の魂が……生まれ変わった君でありますように。

「――アラン」


捏造です。“ジャガンが異魔神に殺されたまま”だった場合のif創作。
故に何故かその現場にアステアがいたり、未来の旦那が別の人だったりします。
2005.1.13イーヴン

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